人生、不十分

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夜が明ける(読書感想)

西加奈子さんの5年ぶりの長編『夜が明ける』をやっと読んだ。

 

発売日に買ったけれども、西さんの作品はしっかりと構えて読まないと色々とごっそり削られてしまうことが多々あるので読むタイミングを見計らってた。

でも、それ以上にもう早く読みたいって気持ちが勝ってしまって風呂掃除あとにほぼ勢いで徹夜みたいな感じで読み終えた。

 

一番最初に出てくるのは「やっぱり西さんは登場キャラクターの人生を描くのがめちゃくちゃ上手いし、妙なリアルさがあるなあ」だった。

 

西さんと言えば、直木賞を受賞したサラバ!がかなり有名だと思う。

そのサラバ!も登場キャラクターの人生を描いた作品で、これが心に刺さりつつもエンタメ作品として群を抜いて面白かった。

 

今回の『夜が明ける』はある種社会問題にも切り込んだ話だった。

貧困問題やジェンダー問題、容姿に関する問題等々・・・様々なところに切り込んでいた。ただ、それが不快に感じることはなくむしろ考えさせられた。

 

本作はダブル主人公って言っていいと思う。

一人はその容姿や吃音から少し周りの人から距離を置かれていたが、あることがきっかけで自分の人生の方向性が決まる深沢暁。

 

そして語り部として物語を進めていく「俺」。

 

高校で出会った二人が大学進学や就職を得て、それぞれの道を歩んでいく。

 

そのそれぞれの道が対照的だった。

語り部たる「俺」は高校卒業後、大学進学をしてテレビ業界に就職する。

いっぽう暁は進学はせず劇団に入団して・・・というところ。

 

詳しく感想を書こうとするとどうしてもネタバレになってしまう・・・笑

 

暁は「俺」がきっかけでとある役者になりきろうとする。

それが人によっては人生がゆがんだ、道がおかしくなったと思われるかもしれないけども暁からしてみればそれは間違いなく救いだった。

 

周りから一線を引かれてしまう容姿に吃音。

それでも「俺」がきっかけで暁は人生に意味を見つけたんだと思う。

ただ、その道のりは大変で。家庭が貧乏ということ、常に周りに気を使い続けていること。

それでも暁はその役者になるため、なりきるための道を進む。

 

一方の「俺」。

高校卒業前にして父親が亡くなってしまい、大学には奨学金を使って入り常にアルバイトをしていた。

就職はテレビ業界であったが、局ではなく小さな制作会社。

 

私自身はテレビ業界の事を詳しく知らないけれども、実際に働いていてた友達に聞いたところだと所謂ブラックが多いと。

「俺」が就職したところもまさにそういう会社。

旧態依然とした会社でサービス残業、言葉の暴力は当たり前の世界。

そこで「俺」は踏ん張っていくもどんどんすり減って行ってしまう。

 

こういう話の中に貧困問題やジェンダー問題が複雑に絡んでくる。

特に男だから耐えないといけないみたいな風潮に切り込んでいたのは凄かったと思う。

 

誰かに「助けてください」って言っていいんだって自分自身も肯定された気がする。

どうしても見えないところでのしんどさや辛さっていうのはあって。

 

でも現代日本にはいまだにそれを表にすることは弱いという空気がある。

私自身もそういう風に思ってしまっているところもある。

 

けどとにかく「助けてください」って言っていいんだと。

これは小説であり物語でもあるけど、現代日本の問題とリンクしていると思う。

 

だから、少しでも悩んだり疑問に思ったりしていること。

表立って言えないけど、心の片隅に何か引っかかりがある人に読んでもらいたい。

 

きっと心に刺さると思うし、少しだけ勇気がもらえると思う。

 

つくづく、西さんの作品が好きだなあって思った。

また時間がかかっても良いから、新作の長編が読みたいなって思っている。

 

がわ